一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.063

Issued: 2017.03.21

認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長・多田千尋さんに聞く、暮らしに木を取り入れる取り組み

多田 千尋(ただ ちひろ)さん

実施日時:平成29年3月1日(水)15:30〜
ゲスト:多田 千尋(ただ ちひろ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 1961年、東京都生まれ。芸術教育研究所所長。認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長。東京おもちゃ美術館館長。早稲田大学講師。
  • 明治大学法学部卒業後、プーシキン大学に留学し、幼児教育、児童文化、おもちゃなどを研究。乳幼児から高齢者までの遊び文化、芸術文化、世代間交流の研究と実践に取り組んでいる。
  • 著書に『世界の玩具事典』(共著、岩崎美術社)、『グッド・トイで遊ぼう』(共著、黎明書房)、『おもちゃのフィールドノート』(中央法規出版)、『先生も子どももつくれる楽しいからくりおもちゃ』(共著、黎明書房)など多数。
目次
日本グッド・トイ委員会を起ち上げた一番の使命は、消費者サイドに立っていいおもちゃを選び表彰すること
おもちゃがもつ「文化度」を高め、いいおもちゃが国民から長く愛され続け、国産の木でつくられるおもちゃが増えていくための応援団を目指す
キャラバンと呼ぶ移動おもちゃ美術館で、年間に50カ所くらいに出かけている
340人ものおもちゃ学芸員が15万人の入館者に対するホスピタリティーを支えてくれている
ウッドスタート宣言をしてくれた市町村は31にのぼる
乳幼児の段階から始める木育が、日本の各地で展開できるようにしたい
森林資源をもっと活かさなければいけないし、匠の世界にもっと光を当てなければいけない

日本グッド・トイ委員会を起ち上げた一番の使命は、消費者サイドに立っていいおもちゃを選び表彰すること

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長の多田千尋さんにお出ましいただきました。
日本グッド・トイ委員会は、おもちゃ文化に関わるさまざまな活動を展開され、環境省が主催するグッドライフアワード2015年では、「暮らしに木を取り入れる取り組みを宣言し、実践するプロジェクト」で環境大臣賞グッドライフ特別賞を受賞されています。
本日は、日本グッド・トイ委員会の取り組みをお伺いしながら、私たちの暮らしや社会、あるいは環境との関係について考えさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
日本グッド・トイ委員会は、「いいおもちゃの選定」を行うことが設立の動機と伺っておりますが、委員会を起ち上げられた経緯の紹介から始めていただけますでしょうか。

多田さん― 私たちは、1985年に日本グッド・トイ委員会を任意団体として起ち上げました。一番の使命は、おもちゃに焦点をあて、消費者サイドに立っていいおもちゃを選び表彰するアワード(賞)をつくることでした。実は、その前段階にあたる「おもちゃコンサルタント養成講座」に取り組み、おもちゃの専門家を養成していたのです。養成されたおもちゃの専門家が、消費者目線に立ってアワードを決める投票会を始めたということになります。消費者の代表が投票するという意味では、「本屋大賞」に似ているのかもしれません。「おもちゃコンサルタント」は、現在、日本全国に6,000人おります。

大塚― おもちゃコンサルタントの方々は、どのような背景をおもちなのですか。

多田さん― いろいろな職種の方がいます。たとえば、保育士、小児病棟で働く看護師や医師、障害児施設や老人ホームなどの介護福祉士や作業療法士など、自分の仕事におもちゃを引き付けて取り組む方が多くいます。もちろん、職業に関係なく、初孫のために取り組まれたような方もいます。先ほど申し上げた6,000人には、下は19歳から上は81歳と大きな幅があります。
おもちゃの投票会では、1人1人のコンサルタントが投票権をもち、投票結果に基づいて、年に30点から40点のグッド・トイを選考しています。

「グッド・トイ」に選ばれたことを示すマーク。

「グッド・トイ」に選ばれたことを示すマーク。

東京おもちゃ美術館内のグッド・トイ展示。

東京おもちゃ美術館内のグッド・トイ展示。

おもちゃがもつ「文化度」を高め、いいおもちゃが国民から長く愛され続け、国産の木でつくられるおもちゃが増えていくための応援団を目指す

大塚― 選考会を始められた背景を、改めてご説明いただけますか。

多田さん― 相互に関係するかもしれませんが、3つにまとめられます。
1つ目は、ヨーロッパ諸国に比べて遅れている日本のおもちゃ文化を見直したかったことです。日本の社会には、おもちゃを「壊れ物」とか「くだらない物」かのように扱う風潮もあるので、おもちゃがもつ「文化度」を高めたいということです。
2つ目は、日本は先進諸国のなかでロングセラー玩具が最も育ちにくい国で、次から次へと新商品がつくられているのです。いいおもちゃが国民から長く愛され続くよう、そのための応援団を目指そうとしたのです。
3つ目は、日本では国産の木でつくられるおもちゃの自給率が3%以下ときわめて低いことです。日本には森林が多く、昨年の統計をみても、日本の森林率はフィンランドに次いで第2位なのですよ。これだけ木に恵まれていながら、木のおもちゃがわずかしかつくられていないのです。
私はヨーロッパの木工職人さんの工房などをずいぶん訪ね歩いたのですが、日本の木工の匠の腕が上と感じることが非常に多くあります。世界屈指の匠の文化をもち、世界第2位の森林大国でありながら、いい木のおもちゃが生まれないことへの不満がたまっていたのですよ。

大塚― 投票のことに戻りますが、グッド・トイの評価にはいろいろな見方がありそうですね。

多田さん― 私たちが、グッド・トイに選んだ40くらいのおもちゃの間に優劣をつけることはありませんが、選定にあたって3つほどの方針があります。
第1は、コミュニケーションが豊かになる、たとえば子どもが1人の世界に閉じこもらず、父と子とか、祖父母と孫とか、あるいは兄弟姉妹とかでワイワイと話したくなる、コミュニケーションを活性化するようなおもちゃという視点です。
第2は、勉強に直接役立つ知育玩具【1】、たとえばカタカナを覚えるためとか、国旗を覚えるためにつくられるおもちゃではなく、もっと純粋に遊びのため、あるいは遊びを応援するようなおもちゃという視点です。
第3は、平和的なおもちゃです。大変困っているのが戦争玩具で、戦争玩具をつくっている国は、第1位がアメリカ、第2位が日本なのです。スウェーデン、フィンランド、ドイツなどでは、戦争玩具をつくると会社が潰れる可能性が高いほどなのですが、日本では戦艦大和とか戦艦武蔵とか零戦とか、さらにはハーケンクロイツ【2】のマークの付いたおもちゃさえ作られていたのです。このような風潮を食い止めたいと思っています。

大塚― そのとおりですね。

「グッド・トイ」2016年選定おもちゃの例。大賞を受賞した、「パットベル シェルフ-ペンタトニック」(PlayMe Toys)

「グッド・トイ」2016年選定おもちゃの例。大賞を受賞した、「パットベル シェルフ-ペンタトニック」(PlayMe Toys)

林野庁長官賞の「kan pon pon(かんぽんぽん)」(mori no oto)

林野庁長官賞の「kan pon pon(かんぽんぽん)」(mori no oto)

「糸引き忍者独楽」(木地玩具蔦屋)

「糸引き忍者独楽」(木地玩具蔦屋)

「クックと散歩道」(スタジオ・ノート)

「クックと散歩道」(スタジオ・ノート)

キャラバンと呼ぶ移動おもちゃ美術館で、年間に50カ所くらいに出かけている

大塚― ところで、日本グッド・トイ委員会は活動の幅を広げておられますが、現在行っている代表的な活動をご紹介ください。

多田さん― 一番大きいのが、この建物にある東京おもちゃ美術館【3】の運営です。この美術館には、年間に15万人が入館されます。直営の美術館はここだけですが、ヤンバルクイナ【4】が生息する森が広がる沖縄県国頭村の村立「やんばる森のおもちゃ美術館」は、私たちが全面支援してつくったもので、姉妹おもちゃ美術館協定を結んでいます。3年以内に、他に6つ美術館をつくる予定です。

東京おもちゃ美術館の外観。

東京おもちゃ美術館の外観。

東京おもちゃ美術館内に開設する「赤ちゃん木育ひろば」。

東京おもちゃ美術館内に開設する「赤ちゃん木育ひろば」。


おもちゃ美術館の運営が安定してきたので、もう少し外に目を向けようと、基幹事業として取り組んでいるのが、難病の子どもたちに遊びを通して栄養補給をすることです。東京おもちゃ美術館から近い東京女子医科大学附属病院や、世田谷区にある国立成育医療研究センターの病院など10の病院で活動しています。具体的には、子どもたちが遊ぶ環境を整えたり、遊びの支援をしたりしています。ついこの間、難病の子どもたちに東京おもちゃ美術館を貸し切りにしたところ、ストレッチャーや車いすでやってくる子もいて大好評でした。

病児の遊び支援「ホスピタルトイキャラバン」の様子。

病児の遊び支援「ホスピタルトイキャラバン」の様子。


大塚― 外に広がる活動は素晴らしいですね。

多田さん― 活動の場を、もっと遠くへも広げています。私たちがキャラバンと呼ぶ移動おもちゃ美術館で、年間に50カ所くらいに出かけます。サーカスの一座のように、ほとんど毎週どこかに行きますので、キャラバン用のセットは運送会社に預けっぱなしです。今度の行き先は、長野県の木曽町です。
国際交流にも力を入れています。今まで、東ティモール、フィリピン、台湾などに参りましたが、現在力を入れているのはミャンマーです。私がブリッジ・エーシア・ジャパン【5】というNPOの理事をしていることもあり、東京おもちゃ美術館として、ミャンマーの小学校に図書セットを寄贈しています。ミャンマーのほとんどの小学校には、図書館というものがまったくなく、本に触ったこともない子どももいるのですよ。

「キャラバン」と呼ぶ移動おもちゃ美術館当日の様子。

「キャラバン」と呼ぶ移動おもちゃ美術館当日の様子。

箱に入れて搬送したおもちゃを並べて、来場者を待つ。

箱に入れて搬送したおもちゃを並べて、来場者を待つ。

ミャンマーでの国際交流の様子。

ミャンマーでの国際交流の様子。


340人ものおもちゃ学芸員が15万人の入館者に対するホスピタリティーを支えてくれている

大塚― 話の順が逆になったかもしれませんが、現在活動されているのは、ボランティアの方を含め何人くらいですか。

多田さん― アルバイトの方を含め、給与を得て働いているのが約40人です。ボランティア登録してくださっている方は約340人です。この方々が週に2回とか、月に1回とか、東京おもちゃ美術館でおもちゃ学芸員として活動してくださっています。1日あたり、15人くらいの方が働くことになります。
これらの皆さんは、全員がおもちゃ学芸員養成講座を修めておられます。この養成講座では受講料として4,000円を収め、2日間にわたりちょっとした実習も経験します。その後で、日本グッド・トイ委員会に年会費5,000円を収め、正会員になっていただいているのです。さらに、このおもちゃ美術館で活動する時に着る赤いエプロンを2,500円で買っていただいています。どこまでもお金をとられると苦笑いされることはありますが、340人もの方が15万人の入館者に対するホスピタリティーを支えてくれているのです。東京おもちゃ美術館にとって、大きな宝です。

大塚― ボランティアの方には頭が下がりますね。いろいろなことがあったかと思いますが、エピソードの紹介もお願いできますか。

多田さん― この美術館がオープンした当初、おもちゃ学芸員になってくださった男性が、階段のところでうずくまり手を床につかれていたのです。体調を崩されたのかなと思い近づくと、手で階段をなで涙を流されていました。「どうされました」と訊ねると、「実は私、この小学校の卒業生で、母校がおもちゃ美術館としてよみがえったことがとてもうれしいし、56年前に卒業したときと何も変わっていない階段をなでたくなり、そうしたら涙がボロボロと流れてきてしまいました」と言われました。東京おもちゃ美術館は、かつて四谷第四小学校として昭和11年に建てられ、奇跡的に戦災を免れた歴史的な建物に入っているのです。四谷第四小学校は少子化の影響などで、とうとう10年前に閉校になったのですが、住民の皆さんの願いもあり、東京おもちゃ美術館が入りよみがえったのです。340人のボランティアの中には、卒業生も結構おられますし、教員だった方もおられます。

東京おもちゃ美術館の「おもちゃのもり」は、旧四谷第四小学校の音楽室の黒板をそのまま活かしている。
東京おもちゃ美術館の「おもちゃのもり」は、旧四谷第四小学校の音楽室の黒板をそのまま活かしている。

東京おもちゃ美術館の「おもちゃのもり」は、旧四谷第四小学校の音楽室の黒板をそのまま活かしている。


ウッドスタート宣言をしてくれた市町村は31にのぼる

大塚― 木のおもちゃの話に移らせていただきます。最初に、赤ちゃんから始める「生涯木育」がどのような取り組みかをご紹介ください。

多田さん― 東京おもちゃ美術館を始めたとき、木の香りのするおもちゃ美術館にしたいと、内装に国産材をたくさん使いました。私たちの期待どおり、若いパパやママたちから支持されたのに加え、林野庁が国産材を使ってもらうための事業である「木育」に合致することから、モデル事業として支援していただくことになったのです。この事業に関わり来年で8年目になりますが、東京おもちゃ美術館が「木育」の中心かのようになってしまいました。
「木育」は、木の力を借りて子どもたちを育成し、大人のライフスタイルを素敵なものに変えるなど、赤ちゃんからお年寄りまで生涯にわたって関わる、いわば「生涯木育」なのです。とはいえ、「木育」は「食育」などと違い、伝えるのが難しいため、「木育」に代わり「ウッドスタート」という造語を作り、それを広める応援団を募ろうと、市町村の市長さん、町長さん、村長さん、さらには企業の社長さんに「ウッドスタート宣言」をしていただこうと働きかけてきました。今年で、5年になります。

大塚― 成果はいかがでしたか。

多田さん― ウッドスタート宣言をしてくれた市町村は31にのぼります。宣言されると、調印式のために必ず出向きます。最近宣言された、熊本県の芦北町と津奈木町で木育キャラバンを開催したところ、両町長さんをはじめ800人ほどが集まってくださいました。
調印式で、町長さんが私たちといくつかの約束をしてくれます。1つ目が誕生祝品です。例えば芦北町で赤ちゃんが生まれると、芦北町で育った木で芦北町の職人さんがおもちゃを作り新生児に贈るのです。2つ目が、町に技術力のあることが条件になりますが、地元の小中学校の机や椅子を地元の木から作るのです。生涯最後の木育は、地元の木から棺桶を作ることです。このようにして、地場産業を育て木の自給率を高めることを目指しています。
企業についても、社員に赤ちゃんが生まれると、国産材のおもちゃを祝品に贈るようお願いしています。また、多くの企業がショールームに国産の木材を使った木育広場を作ってくれています。たとえば、アウディは横浜のみなとみらいにある最大のショールームをはじめ約60店舗に作っていますし、ドコモショップも4店舗に作っています。
また、読売新聞社は大手町の本社3階に作った保育園の総合プロデュースを私どもに任せてくれましたので、日本の木を使わせていただきました。三井不動産のららぽーとショッピングモールの施設も、われわれが国産材を使って作らせていただきました。
現在の日本では、国産材の価格が高いこと、輸入材を使うマーケットが出来上がっていることなど、困難な要因もあるのですが、崩壊している日本林業を再生したいと考えています。

大塚― 地産地消、そして地場産業をとおした地域活性化をもっと進めていただきたいと思います。

企業のウッドスタート事例(ドコモショップの木育ルーム)。

企業のウッドスタート事例(ドコモショップの木育ルーム)。


乳幼児の段階から始める木育が、日本の各地で展開できるようにしたい

多田さん― 最近、日本を代表する林業家の方に森の中を案内してもらう機会がありました。大変立派な杉の木を手で叩きながら、「多田君、この杉は何のために僕らが育てているか知っていますか」と訊かれ、答えに窮したことがあります。その方は、「300年後に法隆寺の改修が予定されているので、その時のために育てているのです」と言われました。大変に驚きました。
私は木育について、来週どうしようかとか、来月どうしようかとか、せっかちに考えていたのに対し、その方はマラソンランナーの視点というのでしょうか、300年先のことを考えていたのです。この時、私なりに先のことを大事にする視点も大事だなと考え始めた途端、環境の問題や木育の問題は赤ちゃんの時から大切ではないかと改めて思ったのです。

大塚― ウッドスタートの発想と相通じるようですね。

多田さん― そうです。大学生になってから環境意識を芽生えさせるよりも、乳幼児のときから肌に染みこむように、環境のこと、木育のことを理解してもらうのがいいのではないかと強く感じています。
生涯木育について、私が今考えていることをお話しさせていただきます。実は、赤ちゃんから始める生涯木育という私たちの主張に最初に反応してくれたのが、保育園の先生たちでした。保育園で木育をしたい、なるべく施設の内装に木を使いたい、木造の園舎を建てたい、子どもたちに木のフローリングの手入れをさせたい、さらに今年は柿渋で来年は米糠でフローリングを磨いてみたいなど、いろいろなアイディアが出されています。
このような発想に応えるためにも、乳幼児の段階から始める木育が、日本の各地で展開できるようにしたいというのが私の願いです。「木育総合センター」を各地に作り、若いお母さん・お父さんたちがわが子を気軽に連れていけるようにしたいと考えています。

森林資源をもっと活かさなければいけないし、匠の世界にもっと光を当てなければいけない

大塚― 多田さんは、東京おもちゃ美術館の活動をはじめ国際的な視点を強くおもちですが、おもちゃ文化について世界を視野に入れたお考えを紹介いただけますか。

多田さん― 日本の木を使ったおもちゃ大国にしたいと考えています。というのも、意識の高いお母さん・お父さんほど、日本の木のおもちゃよりドイツの木のおもちゃに関心をもっているのです。できることなら、ドイツの意識の高いお母さん・お父さん方が日本の木のおもちゃを買うぐらいにしたいのです。来年1月下旬に、ドイツのニュールンベルクで世界最大のおもちゃの見本市が開かれます。そこに、オールジャパンのチームを組んで出かけ、日本の木のおもちゃをドイツの人びとに見てもらおうと考えているところです。そのためにも、木を扱う匠が大事にされ、若者が夢とロマンをもって木のおもちゃ職人の世界に入れる道を作りたいとも思っています。

大塚― 最後になりますが、多田さんからEICネットの読者に向けたメッセージをお願いいたします。

多田さん― ボランティアの方々から学んだことの紹介から、話をはじめたいと思います。多くの方が、自分の十八番で勝負をするべきで、そうしないと長続きしないと言われます。コマ回しが得意な方は、コマの指導者として活躍すれば長続きしますし、牛乳パックの工作が得意な方にはその世界の延長線上で長く活躍いただけるのです。
この発想と同じように、日本の得意技は何だろうと考えると、1つは世界第2位の森林資源、もう1つは匠だと思うのです。森林資源をもっと活かさなければいけないし、匠の世界にもっと光を当てなければいけないのです。私は、木を1本たりとも伐るのは環境破壊だと言われて育ったのですが、現在では、森林を研究されている先生たちは「木を伐らないという環境破壊」とよく言われます。日本は森林面積が広く、外国の方がよく言うように、世界でもめずらしいほど樹種が豊富な国なのですよ。この得意技を発揮しないのはもったいないのです。

大塚― 木のおもちゃをめぐり、日本の林業の復興や地産地消の大事さなど、多くのことを伺うことができました。本日は、ありがとうございました。

認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長・多田千尋さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。

認定NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長・多田千尋さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】知育玩具
 子どもがもつ好奇心や遊びに対する興味を刺激することで、知能の発達や心の成長を促す目的でつくられたおもちゃで、積み木やパズルなどが代表的。
【2】ハーケンクロイツ(Harkenkreuz)
 鉤十字の図案。古代より、さまざまな宗教などと結びついたシンボルとして用いられてきたが、20世紀に入りナチスの党のシンボルに採用されたことでよく知られ、現在でもヨーロッパ諸国では使用が禁止されていることが多い。
【3】東京おもちゃ美術館
 閉校となった東京都新宿区にある旧四谷第四小学校の校舎を、内装を活かしながら美術館仕様に改修した建物に、2008年に日本グッド・トイ委員会事務局などとともに移転した。
【4】ヤンバルクイナ
 ツル目クイナ科ヤンバルクイナ属に分類される、沖縄島北部に固有の鳥類。1981年にRallus okinawaeという学名が与えられた。ほとんど飛翔はできず、林床で昆虫、甲殻類、両生類、種子などを採食する。森林伐採などによる生息地の減少、交通事故、野生化したイヌ・ネコや人為的に移入されたマングースによる捕食などで生息数が減少したが、最近はマングースの駆除などが行われ減少に歯止めがかかり始めている。
【5】ブリッジ・エーシア・ジャパン(BAJ)
 1993年に、国際協力を行う任意団体として発足。当初の目的はベトナムの戦後復興支援であったが、1994年に、国連難民高等弁務官事務所の要請を受け、ミャンマーのラカイン州を拠点に、帰還難民の定住促進事業の取り組みを始めた。その後も、ミャンマーとベトナムを主な対象に、貧困地域の生活改善支援などを展開している。2007年から認定NPO法人。
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